近隣トラブルの対応

執筆|トキワ精神保健事務所

 

近隣トラブルを発端とする刺傷事件が立て続けに起きています。

「生活音うるさい」とどなり込み、隣人女性刺す

美唄で男性殴られ死亡 除雪や騒音で隣人トラブルか

京都の事件では騒音を立てたとされる方が被害者となり、北海道の事件では騒音を立てたとされる方が加害者となるなど、詳細は異なりますが、おそらく以前よりトラブルが発生していたのではないかと考えられます。連日の酷暑もあり、日頃のストレスが暴発したのかもしれません。

双方とも加害者は無職とありますが、社会とのつながりが途絶えた生活が長く続くと、孤立が深まり、思考障害に陥ったり、ほんの少しの物音でも過敏になったりすることがあります。

昼夜逆転の生活により睡眠障害が起こり、日中の一般的な生活音でさえ許せなくなることもあります。

今回の事件の加害者の精神状態がどのようなものだったのか、現時点ではわかりません。しかし、トキワ精神保健事務所に相談のある近隣トラブルに限って言えば、明らかに被害妄想がある(覗かれている、盗聴されている)場合や、神経過敏になっている場合など、先方が精神疾患を患っていると思われる事例は非常に多いです。

漫画『「子供を殺してください」という親たち』第2巻でも、近隣トラブルとなったケースを取りあげています。

「子供を殺してください」という親たち 2 (BUNCH COMICS) コミックス第2巻より)

このケースでは、本人を医療につなげることで、大きなトラブルに至らずにすみました。しかし、家族に病気への理解がなかったり、身寄りのない方ですと、適切な医療につなげることは難しくなります。

近隣トラブルからの殺傷事件は定期的に起きており、決して珍しいことではありません。自分がトラブルに巻き込まれたとき、どのような対応をとるべきなのか、考えてみたいと思います。

通常の騒音(非常識な時間帯に大きな生活音を立てたり、大音量で音楽を聴いたり、大人数で騒いだりするなど)の場合、賃貸であれば、不動産または大家さんを介して、気づかいしていただけるようお願いするとよいでしょう。

持ち家同士の場合は、他にも同じように感じている方がいるかどうかを確認し、自治会に相談するか、支持している地区の議員さんがいれば、その方に相談するなど、いずれにしても「公」にしていきましょう。

相手と口論やトラブルになりそうであれば、軽く考えずに、所轄警察署の住民相談に相談します。履歴を残しておくだけでも、万が一の110番通報の際、迅速に対応してもらえるはずです。

近所づきあいが減っている昨今だからこそ、「個人 対 個人」の問題にしないことが重要です。

しかし、警察沙汰になるようなトラブル(あるいは、警察沙汰になっても止まらないトラブル)であれば、短期間での解決を図ることは難しいと思われ、そこに住み続けるのかどうかも含めて、検討の余地があります。

次に、隣人から身に覚えのない苦情を言われるケースです。過去の相談であったのは、

・常識の範囲内での生活音しか立てていないのに、執拗に苦情を言われたり、壁を叩かれたり、うるさいとドアを叩かれたりする。

・警戒心からか、隣人が家の周りをうろうろしたり、家の中を覗き込んだりする。

・家の前にゴミをまく、ポストに投げ文するなどされる。

といったことです。

この場合も、まずは不動産や大家さんに仲介に入っていただきましょう(先方の契約者や保証人が「家族」であれば、家族から本人に話をしてくれることもあります)。

その上で、隣人に精神疾患の疑いがあるのであれば、保健所に行き、【隣人に精神疾患の疑いのある方がいる】ことを伝え、【精神保健福祉法第22条による事前調査】をお願いしましょう。

なお、精神保健福祉法第22条とは、【精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、誰でも、その者について指定医の診察及び必要な保護を都道府県知事に申請することができる。】という条文です(一般申請ともいう)。この条文は形骸化しており、申請を受け付けてもらえることはほとんどありませんが、行政機関に履歴を残しておくことが重要です。

その上で、警察署(生活安全課)にも相談に行っておくとよいでしょう。

住居が持ち家か賃貸かにもよりますが、不測の事態に備えて防犯カメラを設置するなど、セキュリティの強化ができれば、なおよいと思います。

なお、マイホームを中古で購入後、近隣トラブルが繰り返されている瑕疵物件と判明した場合の判例を参考に挙げると、売主と仲介業者の告知義務違反が認められた判例もあります。(平成16年 大阪高等裁)。詳しくはこちら【住居売買後の迷惑な隣人の発覚と売主・仲介の責任(肯定裁判例)】

買主は、売買契約の無効を訴えましたが、判決では、「損害賠償として購入額の2割の弁償」が認めらています。よほど悪質なケースや、隣人の言動により明らかな居住状況が厳しいケースでないと売買契約の無効にまで持ち込むことは難しいでしょうが、一考の余地はあるかと思います。

近隣トラブルについて、劇的な解決策はいまのところ存在しません。家を買ったり借りたりするときには、そのようなトラブルが起きる可能性があるということを、十分考慮に入れておくことです。

近隣に住む方々を無用に恐れる必要はありませんが、トラブルが起きかけたときには、相手がどのようなタイプの方なのか、よく見極めた上で、対応をとることが重要です。