ゴミ屋敷と化す「家」

執筆|トキワ精神保健事務所

「子供を殺してください」という親たち 2 (BUNCH COMICS) 第2巻より)

 

コミックス第2巻(ケース3)では、ゴミを含む大量の“物”に埋もれた自宅が登場します。漫画化・鈴木マサカズ先生の生々しい描写が光る一編です。

いわゆる「ゴミ屋敷」ですが、近年では、このようなゴミ屋敷と化してしまう背景に、精神疾患があることが明らかになっています。「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」では、新たに「ためこみ症」(hoarding disorder:HD)の項目も登場しました。「実際は価値がないにもかかわらず、所有物を捨てたり手放したりすることが持続的に困難」な症状を呈することと説明がなされています。

こうした「ため込み症」は、強迫性障害の一種と考えられてきましたが、最近の研究では、統合失調症や発達障害、うつ病などの精神疾患と合併しやすいことも分かってきています

 

弊社の経験でも、家族の問題を抱える家庭では、「家」が乱雑な状態であることが多いです。ゴミ屋敷とまではいかなくとも、片付いていないという印象を受けます。たとえば、小さな子供がいて片付けが追いつかないとか、両親が共働きで掃除もままならない、というような家庭とは異なり、家全体が殺伐とした雰囲気になっているのです。

家族から話を伺うと、本人に強迫観念があり、同じ物を大量に購入してストックしていたり、使っていない物や古い物を捨てさせなかったり、ということがあるようです。家族もはじめのうちは、気にして片付けようとしますが、本人が片付けや掃除にもこだわりをもっており、「家族が手を出すと怒る」という話もよく耳にします。

片付けたいのに片付けられない、となると、家族のほうもストレスが溜まります。手がつけられないほどの「ゴミ屋敷」状態になってしまえば、家族もまた、心を病んだりうつ状態になったりしてしまうのも、当然と言えます。

20年近く息子がひきこもり生活を送っていたある家庭では、弊社が介入し、本人を入院治療につないだ翌日に、母親が嬉々として台所を片付け、花を飾っていました。「家」と「心」の状態の関連を、如実に表す出来事でした。

 

弊社ではこういった家庭を目にする機会が多々ありますが、ゴミ屋敷になっていようとなかろうと、本人が「家」に執着しているケースはとても多いです。弊社の介入後、家族から「もう一緒に暮らせない」「自立してほしい」と告げられても、本人は「家に帰りたい」と主張します。

本人から、「実家は俺の物だ」「家がどうなっているか教えろ」と言われることもあります。ここまでの執着となると、言葉の説得ではその考えを変えることはできず、家族が実家を売却するなどしてようやく諦めるような状況です。

これらのケースでよくある背景としては、

・本人が「長男」で、幼少期から跡継ぎとして育てられてきた(厳しく躾けてきたケースが多い)

・子供が小・中学校で不登校やいじめなどに遭遇しているが、親は適切な対応ができず、そのやましさからひきこもりを長く許容してきた

子供が心の病気になったことについて、親が「かわいそう」という感情を前面に出して、「〇〇のことは、お父さんとお母さんが一生、面倒をみてあげる」などと言い聞かせて過ごしてきた(※これについては、トキワノート「親の責任とは」で詳しく書いています)

といったことが挙げられます。

「親名義の家で、親が成人した子供を扶養している」という事実の中で、実態は子供が「主人」であるかのように力関係が逆転しているわけですが、これは突如起こりうることではなく、また単純に「心の病気」だけが理由なのではなく、それまでの親子関係も大きく影響していると言えます。