山口県周南市の両親殺傷事件、その後

今年4月16日、山口県周南市にある「セブンイレブン」の上の住宅で、30代の男性が母親を刃物で刺した事件で、山口地裁は、男性に無罪判決を言い渡しました。

両親殺傷で無罪判決 山口地裁「心神喪失の状態」

山口県周南市で4月、母親と父親を殺傷したとして殺人などの罪に問われた同市の男性(34)の裁判員裁判で、山口地裁(井野憲司裁判長)は12日、男性が「統合失調症の影響で心神喪失の状態だった」として、無罪判決(求刑・懲役9年)を言い渡した。

井野裁判長は判決理由で、男性は両親から自殺に追い込まれているとする被害妄想を抱き「善悪を判断し、行動を制御する能力が失われていた疑いがある」と指摘した。

男性は4月16日、店舗兼自宅の2階で母親(当時60歳)の胸を包丁で刺すなどして殺害し、60代の父親を殴って重傷を負わせたとして逮捕された。山口地検は鑑定留置の結果、責任能力はあったと判断して7月に起訴していた。

地検は判決や今後の対応について「コメントは出さない」としている。【平塚裕介】

引用:2018/12/12 毎日新聞

最近の事件では、被疑者の逮捕・送検後に鑑定留置が行われるケースが増えているように思います。鑑定留置の結果、被疑者に心神喪失者等医療観察法が適用されるまでの経緯については、法務省のHP(心神喪失者等医療観察法の審判段階での被害者支援)に以下の説明が掲載されています。

「検察官は,心神喪失又は心神耗弱の状態(精神の障害のために善悪の区別がつかないなどの状態)で殺人,放火,強盗などの重大な他害行為を行った者であって,心神喪失等を理由として不起訴処分とし,又は無罪等の裁判が確定した者について,その精神障害を改善し,社会復帰を促進するため,地方裁判所に対し,適切な処遇の決定を求める申立てを行います。申立てを受けた地方裁判所では,裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体で審判を行い,対象者を入院させて詳しい鑑定を行うなどした上,厚生労働大臣が指定する指定医療機関(国公立病院等)への入院決定や通院決定,医療を行わない旨の決定等をします。」

周南市の事件でも、山口地検が鑑定留置を行いましたが、結果、地検は男性を起訴しています(求刑・懲役9年)。男性に「責任能力がある」と判断したわけです。

しかし裁判では、男性が「統合失調症の影響で心神喪失の状態だった」として、無罪判決が言い渡されました。裁判員裁判ですから、参加した裁判員から見ても、男性が公判を維持できる状態ではなかったということかと思われます。

気になるのは、この後の男性の行く末です。統合失調症による妄想があったとはいえ、母親を殺害しただけでなく、父親にも重傷を負わせています。今後、家族が男性の社会復帰をサポートできるのかどうかは、非常に複雑なところです。

別のニュースでは、男性には10年にわたる病歴があったとも報道されており、地検が今後の対応について「コメントは出さない」としていることから考えても、医療観察法の審判申立てが行われるのではないかと予測されます。

ちなみに、平成29年版の犯罪白書(第4編/第10章/第3節/1 審判)によると、平成28年には350件の触法精神障害者による(放火・強姦、殺人等)の事件があり、うち313件が不起訴となっています。終局処理では、総数341件(年をまたいだものが含まれているとみられる)のうち、心神喪失者等医療観察制度による入院決定が238件、通院決定が36件、医療を行わない旨の決定が50件、却下14件(内訳は「対象行為を行ったとは認められない」が1件、「心神喪失者等ではない」が13件)となっています。

なお、医療観察法による入院期間には上限がありませんが、通院は3年(延長2年)の上限があります。以前、医療観察法病棟に勤務した経験のある精神科医から聞いた話では、「かなり手厚く治療・サポートを受けられる」とのことでした。

とはいえ、本来は事件が起きる前に、各分野の専門家から継続支援を受けることが望ましい中で、このような事件が起きてしまったことは残念でなりません。被害者のご冥福をお祈りするとともに、加害者になってしまった男性への適切なサポートが継続されることを願います。